研究者名
研究概要
本研究課題では,制御された安定した食糧生産環境構築のため,大気圧プラズマを用いて,ガラス温室内の大気,水,土壌の殺菌・消毒,空気中の窒素固定による肥料の生産,プラズマ合成活性種による植物免疫強化や植物成長促進による食糧生産増加等を実現するシステム『プラズマアグリ』を提案する.これらの殺菌作用,成長促進,免疫強化を誘導する活性種の主成分は,窒素原子を含む低分子の不安定な化合物であり,空気と水のみを原料とするプラズマで合成されている.従って,本研究は化学農薬や化学肥料等の植物育成に必要な高価な化学薬品を,極めて安価な空気と水の構成要素である窒素,酸素,水素のみの化合物で代替する「生物版元素戦略」と捉えることができる.
このように植物機能を引き出す不安定な窒素化合物を「機能性窒素」と定義し,新奇機能性窒素をプラズマを用いて制御合成し,その植物への作用機序を明らかにすることが第一の目的である.一方で,これらの機能性窒素が植物細胞に損傷を与える可能性があり,この「細胞損傷」の機序解明と克服手法を見出すことが,本研究課題の第二の目的である.新奇機能性窒素の探索とそれらのプラズマ制御合成により,機能性窒素で植物を育成する「サステナブルファーム」を実証することが到達目標である.
研究成果
【2022年度】
【2021年度】
【2020年度】
【2019年度】
1.研究成果(抜粋)
オゾン密度を可能な限り低減し,機能性窒素を選択的に合成可能な新しいプラズマ源の開発を試みた.プラズマ反応場が高温になりNOx生成を促進する装置と反応場を室温程度に維持してO3生成を促進する装置を組み合わせることで,NO/NO2やN2O5を選択的に供給できる装置の開発に成功した.
特に,熱分解のため不安定で,ボンベから供給できないN2O5を,空気を原料にスイッチ1つで合成可能にした(図1,表1).他分野の研究者が容易に利用可能なように設計することで,未開拓の領域である生物に対するN2O5の作用解明を切り拓くツールになると考えている.
2.招待講演
The 42nd PhotonIcs & Electromagnetics Research Symposium(招待講演)
“Gas-Liquid Interfacial Plasmas Generating Short-Lived Reactive Species for Drug/Gene Transfer into Living Cells”
T. Kaneko, S. Sasaki, R. Honda, M. Kanzaki
Swiss Grand Xiamen (Xiamen, China), 2019.12.19.
応用物理学会プラズマエレクトロニクス分科会 第33回プラズマ新領域研究会(招待講演)
“機能性窒素:非平衡プラズマで創る新奇反応性窒素とその応用”
金子 俊郎
東京大学(東京都文京区), 2020.2.21.
他3件
3.報道
朝日新聞社の言論サイトである『論座』に,
「農業にプラズマを活⽤して持続可能な⾷糧⽣産システムを -世界的に注⽬を集める新基軸、化学農薬や肥料を減らせるか?-」
のタイトルで2020年5月26日に掲載された.
本プロジェクトの研究項目である「サステナブルファーム」についても紹介している.
プレスリリース
2023.07.19:トマトの接ぎ木によるエピゲノム変化 ―同一品種間の接ぎ木で乾燥ストレス耐性を獲得―
2022.08.01:プラズマ技術を利用した植物免疫の活性化 ~環境負荷の少ない植物病害防除技術の開発に期待~
2022.03.29:東北大学及び核融合科学研究所 ガンダム×未来技術の新構想「ガンダムオープンイノベーション」に採択 ~ バンダイナムコグループのサステナブルプロジェクト ~